石川県金沢市にあるやちや酒造株式会社は、加賀藩の時代から続く日本酒の老舗蔵元です。
長い歴史と伝統を守りつつ、現代の観光客や海外の日本酒ファンに向けた新たな取り組みも積極的に行っています。
本記事では、やちや酒造の歩みや酒造りの魅力、近年の取り組みについてお話を伺いながら、その魅力に迫ります。
前田利家公とともに始まった酒造りの歴史
出典:やちや酒造
やちや酒造の創業は天正十一年(1583年)。創業者・神谷内屋仁右衛門が、加賀百万石の藩祖・前田利家公に仕えるため、尾張の国から金沢へ移り住んだことに始まります。殿様専用の酒造りを担う酒蔵として歴史の一歩を踏み出しました。
その後、寛永五年(1628年)には、前田家より「谷内屋(やちや)」の屋号と、酒銘「加賀鶴(かがつる)」を拝受。以来、「加賀」と「鶴」が象徴する格式と縁起の良さを表す名を守り続けています。
現在の酒蔵は築およそ250年を誇り、文化庁の登録有形文化財にも指定されています。歴史ある建物が醸し出す独特の雰囲気は、多くの観光客の関心を集めています。
地元とともに育む銘酒「加賀鶴」
出典:やちや酒造
やちや酒造の代表的な銘柄は「加賀鶴」と「前田利家公」。どちらも地元の歴史にちなんだ名前で、石川県の文化や伝統を象徴する酒として親しまれています。
味わいの特徴は、酒米の旨味をしっかりと感じられる点にあります。加賀の地で契約栽培された酒造好適米「五百万石」「石川門」「百万石乃白」を原料とし、JA金沢市「三谷やちや部会」に所属する15軒の農家と連携した酒米づくりを行っています。
杜氏には能登杜氏の技を受け継ぐ職人が担い、金沢ならではの風土と技術が融合した酒造りが行われています。地元との深い関わりを大切にしながら、品質と伝統を守る姿勢が印象的です。
日本酒文化の発信と観光客への魅力づけ
やちや酒造では、日本酒をより多くの人に楽しんでもらえるよう、さまざまな工夫を行っています。
そのひとつが、日本酒と一緒に水を飲む「和らぎ水(やわらぎみず)」という考え方。これはやちや酒造が発祥とされており、飲み疲れを防ぎながら風味を引き立てる飲み方として知られています。
また、伝統的な日本酒に加え、日本酒ベースのリキュールの製造にも力を入れており、若年層や海外の人々にも親しみやすい味わいを提供しています。観光客が蔵を訪れた際にも、伝統と革新の両面から楽しめる工夫がなされています。
大阪万博への出展で広がる認知
出典:やちや酒造
2025年の大阪・関西万博に際し、やちや酒造は農林水産省による農林水産物・食品輸出プロジェクト(GFP)の一環として出展を果たしました。
当日は「前田利家公 特別純米」と「加賀鶴 梅酒 日本酒仕込」の2銘柄を提供。日本酒はソーダ割、梅酒はビール割といった飲み方で試飲を実施したところ、来場者から大変好評を博しました。
約500人分を用意していたにもかかわらず、予定していた19時を待たずに16時半には品切れとなる盛況ぶりで、日本酒の魅力が国内外の来場者にしっかりと伝わったことがうかがえます。
今後の展望──四季を通じた酒造りと世界への発信
今後について伺ったところ、やちや酒造では国内外へのさらなる展開を見据えているとのことです。国内では大都市圏の居酒屋などで気軽に飲める地酒としての浸透を目指し、海外ではミシュラン星付きレストランで採用されるような高品質な酒造りを続けていきたいと語ります。
また、将来的には社員が通年で酒造りを行う体制を整え、一年を通して「しぼりたて」の新酒が提供できるような取り組みにも意欲を示しています。これにより、季節を問わず常に新鮮な日本酒を楽しめる環境を整えることが期待されます。
やちや酒造は、金沢の歴史と風土を背景に、伝統を守りつつも柔軟に新しい試みに挑戦する姿勢を大切にしています。観光客にとっては、歴史ある酒蔵を訪れ、日本酒文化に触れる貴重な体験となるでしょう。
そしてその酒が、国内外で多くの人々に愛されることで、金沢という地の魅力がさらに広がっていくに違いありません。
基本情報
施設名(正式名称) | やちや酒造株式会社 地酒「谷内屋」 |
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所在地 | 石川県金沢市大樋町8番32号 |
電話番号 | TEL.076-252-7077 |
公式サイト | http://www.yachiya-sake.co.jp |
営業時間 | 月・水・金・土:10:00~16:00 火・木:13:00~16:00 ※12:00~13:00は休館 |
定休日 | 日・祝日(不定休) 年末年始、月曜日が祝日の場合は月曜休 |