和歌山県海南市溝ノ口に蔵を構える平和酒造株式会社。代表銘柄「紀土」をはじめ、日本酒、リキュール、クラフトビール、さらにはどぶろく醸造所など幅広い取り組みで注目を集めています。
若い世代の蔵人たちが挑戦を続ける同社は、どのようにして現在の姿を築き、観光客や訪問者を惹きつけているのでしょうか。その歩みと魅力を伺いました。
創業の歴史と理念 ― 「平和な時代に酒造りを」
平和酒造の創業は昭和3年。創業者・山本保氏は、江戸時代から続く谷口酒造で酒造りを学び、その後家督を継ぐ際に酒好きが高じて自ら酒蔵を立ち上げました。
しかし、歴史の中で幾度も試練に直面します。第二次世界大戦中には国の命令で休業を余儀なくされ、戦後もしばらく免許が下りませんでした。
しかし二代目・山本保正氏は「休業蔵再開」を訴えるため国会に足を運び、情熱をもって再開を勝ち取り、その「平和な時代に酒造りを」という想いこそが「平和酒造」の社名に込められています。
昭和60年代までは大手メーカーへの桶売りを中心に活動していましたが、やがて自らの理想を追い求める酒造りへと舵を切ります。そして近年では平均年齢30歳前後の若い杜氏・蔵人が集まり、「和歌山の風土を世界に伝える」という理念のもと、新たな酒造りに挑戦しています。
「高品質なものづくりにこだわったお酒を届けることで、日本酒という文化を日本だけではなく世界に根付かせること。それが平和酒造の理念です。」と語ってくださいました。
代表銘柄「紀土」 ― 若い世代とともに育むお酒
看板商品である「紀土(KID)」には、「紀州の風土」と「KID=子供」の意味が込められており、若い造り手とともに酒を育て、同時に若い飲み手を育てたいという願いが込められた一本です。
その味わいの特徴は、高野山の伏流水がもたらす優しい口当たりと透明感。純米酒は米の香りをしっかりと楽しめ、純米吟醸はフルーティで華やか、純米大吟醸はエレガントな仕上がりです。
日本酒に馴染みのない方でも気軽に楽しめる味わいで、日本酒ファンへの入口となる存在を目指していますとのことです。
日本酒「紀土」だけではなく、リキュール「鶴梅」、クラフトビール「平和クラフト」といった酒造りを通して、世界へ向けて「和歌山」や「日本」の伝統や文化の発信を目指しています。
原料と和歌山の風土を生かした酒造り
平和酒造の蔵がある溝ノ口は、かつて「野上谷」と呼ばれた地域。世界遺産・高野山を源流とする貴志川の伏流水を井戸から汲み上げ、酒造りに使用しています。川の蛇行によって濾過されたこの水は、柔らかく滑らかな酒質を生み出す大切な要素です。
また、酒米には兵庫県産山田錦や北陸産五百万石を中心に使用しながら、自社田での山田錦栽培にも力を入れています。梅や柚子の栽培にも取り組み、地域と一体となった酒造りを実現しています。
おすすめの飲み方と食のペアリング
平和酒造のお酒は料理との相性が幅広く、シーンによって楽しみ方が変わります。
- 紀土 純米酒
ぬる燗(約40℃)にすると旨味が膨らみ、焼き鳥(塩)や出汁を使った煮物、秋刀魚の塩焼きなどと好相性です。 - 紀土 純米吟醸
12〜15℃に冷やして。寿司や鶏の唐揚げ、天ぷらと合わせやすく、フルーティーさと米の旨味が楽しめます。 - 紀土 純米大吟醸
よく冷やしてワイングラスで香りを楽しむのがおすすめ。白身魚のお刺身やカルパッチョ、軽めのチーズと合わせると華やかさが引き立ちます。
是非すすめの飲み方で、料理とご一緒に楽しんでください。
観光客を迎える拠点 ― 平和酒店と都市部の醸造所
和歌山市駅直結の複合施設「キーノ和歌山」2階にある「平和酒店」は、観光客や地元客が立ち寄れる人気の拠点です。物販だけでなくスタンディングバーを併設し、飲み比べセットや軽いおつまみとともにお酒を気軽に楽しめます。
駅直結という利便性から、観光客やビジネス客にとって格好の立ち寄りスポットになっていますよ。
さらに、東京・兜町や大阪・難波には「平和どぶろく醸造所」を展開。できたてのどぶろくやフルーツを加えたフレーバーどぶろくを味わえる場は、若者や観光客にとって新しい体験の場となっています。
「米でできたお酒をもっとカジュアルに」という思いから生まれた取り組みは、都市部の観光資源としても注目されています。
参加型イベント ― 酒造りを体験できる魅力
平和酒造の魅力は、飲むだけでなく「体験できる酒蔵」である点にもあります。本社近くの田んぼでは、自社栽培の山田錦を使った田植え・稲刈りイベントを毎年開催。毎回約500人が参加し、植えた米が酒となり、それを皆で味わう特別な体験が人気です。
また、都市部でも積極的にイベントを展開。2023年には東京・渋谷のMIYASHITA PARKで「SAKE PARK」を初開催し、今年で5回目を迎えました。全国の有名蔵やクラフトサケ、海外産のSAKEを集め、多様な楽しみ方を提案。若者や外国人観光客にとって日本酒に触れるきっかけとなっています。
日本酒文化を未来へ ― 平和酒造のメッセージ
「私たちが目指しているのは、日常の食卓に寄り添い、飲む人の心を豊かにするお酒です」と語ってくださったように、まだ日本酒に馴染みがない人でも、紀土がきっかけで日本酒を好きになってほしい。その想いが、和歌山の地酒を世界へと押し広げてい流のではないでしょうか。
和歌山を訪れる際には、ぜひその魅力を体感してみてくださいね。
施設名 | 平和酒造株式会社 |
公式サイト | https://www.heiwashuzou.co.jp/ |
住所 | 和歌山県海南市溝ノ口119 |
営業時間 | 月~土 9:00~17:00 |
定休日 | 日祝 |