歴史と自然に彩られた萩のまち。その中心に位置する山口県立萩美術館・浦上記念館は文化の発信地です。
浮世絵と東洋陶磁、そして萩焼という三つの柱で、芸術と地域をつなぐこの美術館。その成り立ちから展示の魅力まで、担当者への取材と公式情報をもとにご紹介します。
実業家・浦上敏朗氏の志から誕生した美術館
山口県立萩美術館・浦上記念館の開館は、萩市出身の実業家・浦上敏朗氏(1926–2020)が生涯をかけて蒐集した美術コレクションを、1993年に山口県へ寄贈したことに端を発します。
この浦上コレクションを核とした美術館は、1996年に開館。以来、浮世絵や東洋陶磁、地元に根ざした萩焼など、幅広い芸術文化を紹介する展覧会を開催してきました。
浦上氏は若き日に美術に魅せられ、実業の傍らで蒐集活動を開始。およそ40年にわたって2,000点を超えるコレクションを形成しました。その多くは、芸術の保存と地域文化への貢献を願って県に寄贈され、美術館の礎となっています。
浦上氏は開館後も名誉館長として作品を寄贈し続け、館の発展に尽力しました。現在も息子の浦上満氏の名義で新たな作品が加えられ、コレクションの層を深めています。
世界が注目する浮世絵コレクション
浦上コレクションの中でも特筆すべきは、その浮世絵コレクションです。世界的にも評価が高く、美術館では常設・企画展を通じて随時公開されています。
中でも注目される一枚が、葛飾北斎による《風流無くてなゝくせ 遠眼鏡》です。1801年から1804年ごろに制作されたとされるこの作品は、北斎としては珍しい「美人大首絵」。郊外で遠眼鏡を覗く婦人と娘が描かれており、当初は7枚組のシリーズだったと推定されています。
「可候画」の落款から享和年間の作と考えられ、北斎の創作期の多様性を示す貴重な一枚です。
陶芸文化を伝える「陶芸館」
2010年には、美術館の敷地内に「陶芸館」が増設されました。400年の歴史を誇る萩焼を中心に、陶芸・工芸文化を紹介するためのスペースです。
1階ロビーでは、江戸時代の窯跡から出土した陶片や、萩焼の素材・技法を紹介する展示を行っています。映像による解説もあり、初心者でも分かりやすく学べる工夫が施されています。季節に応じて様々な企画展も行われており、伝統の技と美に触れられる貴重な機会を提供しています。
建築と景観の美が調和した空間
本館の建築設計を担当したのは、日本を代表する建築家・丹下健三氏が率いた「丹下健三・都市・建築設計研究所」です。建物には、萩の武家屋敷や城下町の土塀などの意匠が巧みに取り入れられています。
石垣風の石壁仕上げや、鍵曲(かいまがり)と呼ばれる曲がり道の空間構成など、町の歴史的景観と見事に融合しています。
陶芸館は、伝統的な「蔵」をイメージし、本館とは異なる素材や表現を用いながら、藍場川をまたぐ渡り廊下で自然とつながりをもたせています。建物自体が萩の町の一部として溶け込んでおり、建築を通して地域文化の魅力を体感することができます。
ミシュラン二つ星の評価と、観光回遊の提案
2015年には、フランスの旅行ガイド『ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン』にて、同館が二つ星を獲得。これにより、海外からの注目度が高まり、インバウンド観光の追い風となっています。
海外からの観光客に向けては、英語などの多言語対応や展覧会解説の充実、地域回遊の提案などを行っており、アートを通じた国際交流の場としても機能しています。
美術館を起点としたおすすめの回遊ルートも用意されています。館内の鑑賞後は、歴史的町並みが広がる萩城下町へと足を運び、国指定重要文化財の菊屋家住宅や、萩の歴史や自然を学べる萩博物館を巡るのがおすすめです。
碁盤の目状に整備された町並みを歩きながら、浮世絵ややきものに見た「わざの美」と、町並みに息づく「歴史の美」の両方を味わえますよ!
萩の文化を、未来へとつなぐ
山口県立萩美術館・浦上記念館は、芸術の展示を通じて地域文化の継承と発信に取り組み続けています。
人々の交流を促進し、心豊かで活力のある地域づくりや、やまぐちの文化力の創造に貢献します。さらには、外国人観光客向け旅行ガイド「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」で県内最高ランクの二つ星の観光施設として紹介された実績も活用しながら、国内外の観光客が気軽に美術鑑賞できる「文化観光」の推進にも取組んでまいります。
こう語っていただいたように、今後の「山口県立萩美術館・浦上記念館」もさらなる発展が期待できますね。
萩を訪れた際には、ぜひ立ち寄りたい芸術の拠点と言えるでしょう。